副腎腫瘍

このような症状はありませんか?

換毛期に新しい毛が生えてこない
全身または体の一部の毛が薄くなっている
皮脂分泌が多くなっている
排尿場所が定まらなくなっている
他のフェレットまたは飼主に対してやや攻撃的になっている
他のフェレットの首にかみついて馬乗りになることがある
外陰部が腫れている
乳腺が腫れている
乳首が発赤しやや腫れて目立っている

フェレットの副腎腫瘍とは

フェレットの副腎腫瘍は、中高齢期のフェレットに発生することの多い疾患です。
副腎は左右の腎臓の頭側に位置する縦横5mm前後で扁平な小さな臓器です。
副腎皮質ホルモンなどの生命維持に必須の重要なホルモンを分泌する役割がありますが、フェレットの副腎が病的状態になると、男性ホルモンと女性ホルモンの分泌が過剰となり、そのホルモンの影響による諸症状が発現します。
具体的には、男性ホルモンの影響による発毛抑制が発生し、換毛期に古い毛が抜けた後に新しい発毛が無いために、薄毛が発生します。

また同じく男性ホルモンの影響による皮脂分泌の増加と体臭の増強が発生したり、他のフェレットに対する性的行動が目立ったり、トイレの場所が定まらず少量ずつ様々な場所での排尿をするようになったり(マーキング様行動)、
場合によっては前立腺が肥大し排尿障害を発生することもあります。

場合によっては前立腺が肥大し排尿障害を発生することもあります。
また、女性ホルモンの影響では、メスの外陰部が肥大したり(発情兆候)、オス・メス両方で乳腺や乳首が発達したりします。

前立腺周囲嚢胞とよばれる病変が発生する原因の一つとも言われています。

一般的には副腎腫瘍からは男性ホルモンと女性ホルモンの両方が分泌されると言われておりますが、経験的にはどちらかに偏って分泌されていると思われる場合も珍しくありません。

例えば、オスのフェレットで薄毛は全く見られないのに乳腺が発達していたり、メスのフェレットで全身が薄毛になっているのに外陰部が全く腫れていない場合もあります。
左右ある副腎の内、診断時に左右ともに腫瘍化している場合は以前の文献では10%程度と書かれていましたが、経験的にはもう少し多いように思いますが、多くの場合には左右どちらかの副腎が腫瘍化した状況を発見することになります。
左右での発生率の差は無いように思われます。

 

現在言われている副腎腫瘍の発生の原因は、フェレットの繁殖シーズンである春から秋にかけて脳から分泌される性腺刺激ホルモンが副腎の性ホルモン分泌組織を刺激することであると言われています。

性腺刺激ホルモンは本来は睾丸や卵巣に刺激を与えて男性ホルモンや女性ホルモンの分泌を促し、サカリや発情を引き起こすことが役割ですが、避妊去勢手術済みのフェレットの場合には、行き場を失ったそのホルモンが副腎にある本来は少量の性ホルモンを分泌する役割の組織に強い刺激を与えてしまうために、副腎は過剰な性ホルモンを生産し始め、その過程で大きく発達した状態となり(過形成)、さらに良性腫瘍である腺腫、そして悪性である腺癌へと変化すると言われています。

くらた動物病院の副腎腫瘍の治療

①診断

臨床症状と触診、超音波検査の結果に基づいて診断します。
副腎腫瘍を強く疑う症状がありながら左右の副腎の腫瘍化が発見できなかったり、全く無症状でありながら健康診断などで偶発的に副腎腫瘍が発見される場合もあります。

②治療方針の検討(外科治療または内科治療)

当院においては、次の点を留意して治療方針の検討を行います。
1,副腎腫瘍は片側だけの発生なのか、両側性なのか。
2,発見時の腫瘍の大きさ。
3,年齢及び他の併発症の有無。

3歳から5歳で他の併発症が無く、発見時の腫瘍の大きさが1センチ以上で左側のみの場合には、若齢であり将来的に腫瘍が増大する可能性が高いため、これ以上大きくなる前に第一選択として摘出手術を積極的にお勧めします。

上記の場合以外では、内科的治療を第一選択とします。

内科的治療を行いながら副腎腫瘍の増大の有無を確認し、増大が見られた場合には外科的介入の是非について再度検討します。

③治療内容

1.外科手術
第一選択として内科療法を選択した場合においても、経過の途中において腫瘍が明らかな増大傾向を示した場合には、増大による余命への悪影響の可能性と手術リスクについて熟慮し、手術実施の是非について飼い主様と相談の上で決定します。
左副腎腫瘍の場合には、副腎腫瘍に分布する血管を止血処理した後に摘出します。左副腎腫瘍は摘出が容易であると言われておりますが、前腸間膜動脈が接近している場合や腫瘍組織が副腎静脈内に侵入しさらに後大静脈内に侵入している場合があるため、簡単に考えずに術中死を防ぐ為に十二分な注意が必要です。
右副腎腫瘍の場合には、細心の注意を払いながら後大静脈から副腎腫瘍を剥離し摘出するか、腫瘍が大きく血管との癒着面積が広く剥離が困難と判断した場合には、腫瘍と後大静脈を一括して全摘出を実施します。

この手術を実施した場合には、後大静脈は切断されたままとなりますが、側副循環(バイパス血管)が機能して切断された後大静脈の機能を補完します。
後大静脈を切断した場合の死亡率は、50%以上と書かれている文献もありますが、当院における実績では約3%となっております。
当院では30年以上にわたるフェレットの副腎腫瘍の手術経験に基づき、他院で手術不可能と診断されたフェレットに対しても、経験上手術可能と判断した場合においては、飼い主様のご希望に応じて積極的に手術を実施しております。

2.内科的治療

外科治療を第一選択として実施しない場合は内科的治療を選択します。
その大前提として、フェレットの副腎腫瘍は腫瘍性疾患でありながら、大多数の症例において腫瘍の大きさの変化が極めて緩徐であり、転移する可能性も極めて低いという性質を持っていることが背景にあります。
腫瘍性疾患の本来の治療は早期発見早期摘出が大原則です。ある意味でフェレットの副腎腫瘍は例外的な存在と言えます。
内科的治療の目的は、副腎腫瘍から分泌される性ホルモンの分泌を抑制し、臨床症状の改善を図ることにあります。
使用する薬剤は、当院では人用の医薬品である酢酸リュープロレイン(製品名:リュープリン)を用います。
もう一つの選択肢として知られているメラトニンの使用については、投与を続けていても効果の持続期間が限定的であると文献に記載されているため、当院では使用しておりません。
リュープリンは月に1回の皮下注射で投与します。毎月の通院が必要となりますが、その都度副腎腫瘍の大きさも必ず確認しますので、安心です。
リュープリンを投与すると、脳から分泌されて副腎腫瘍に刺激を与えている性腺刺激ホルモンの分泌が抑制されるために、結果として副腎腫瘍からの性ホルモンの分泌が抑制されます。
リュープリンを用いた内科的治療は非常に有効な治療法であり、外見上の諸症状がほぼ消えてしまうこともしばしば見られますが、この病気はあくまでおなかの中にある副腎腫瘍という腫瘍性疾患が原因であることを忘れずに、その大きさの変化については常に注意を払う必要があります。
前述した副腎腫瘍を疑う症状が明らかに認められながら、左右の副腎腫瘍の腫瘍化が確認されない場合においても、副腎腫瘍を疑いリュープリンの投与を実施する場合があります。

④治療は原則的に内科的治療を採用します。

腫瘍の外科的摘出に関しては治療効果が不十分であるため採用しておりません。原因である腫瘍を除去できないため、治療は低血糖症状を投薬により緩和し、生活の質を良好に長期的に維持することが目的となります。
使用薬剤の第一選択は副腎皮質ホルモン製剤であるプレドニゾロンを使用します。低血糖の程度に応じて投薬量と投薬回数を調節します。第二選択として人のインスリノーマの治療に用いるジアゾキシドという薬剤を使用する場合もあります。
一般的にはプレドニゾロンの内服を1mg/kgの薬用量で一日2回投与から開始します。
開始後1~2週間後に通院をしていただき、症状の改善と生活の質の向上があるかどうかをお伺いし、さらに血液検査によって投薬量が適正かどうかを判定します。
適正であればその後は一か月に一回程度の通院を行い、その都度ご自宅での様子をお伺いし、血液検査によって血糖値が適正に維持されているかどうかを確認します。
インスリノーマの治療において、血糖値が適正に維持されるかどうかは重要ですが、それ以上に重要であると考えられるのが生活の質の向上と安定であると考えます。
実際に、検査の結果は血糖値が40mg/dlや50mg/dlでも毎日食欲があり安定して暮らす事が出来ていれば、その投薬量は適正であると判断できます。

一方で、検査結果は60~70mg/dlを示していても、生活が安定せず朝方や投薬直前などに元気が低下したりフラフラするなどの諸症状が発症する場合には、その投薬量は不十分であると判断します。
私は飼い主様には『見た目8割、検査結果2割で病状を評価します。』とお伝えしています。