フェレットのリンパ腫について
リンパ腫は、フェレットで最も一般的に見られるがんの一つで、リンパ系の細胞が異常に増殖する疾患です。
フェレットのリンパ腫は、多くの場合、中年から高齢の個体で発生しますが、若いフェレットにも発生することがあります。
リンパ腫の種類
1. 多中心型リンパ腫
これは最も一般的なタイプで、体の複数のリンパ節、肝臓・腎臓・脾臓などの諸臓器に影響を与えます。
2. 胸部縦隔リンパ腫
胸腔内のリンパ節に影響を与えるタイプで、主に若いフェレットに見られます。胸腔内全体に腫瘍組織が増大していても、外見上呼吸困難が明らかでない場合も珍しくありません。
聴診の際に心音が聞こえにくく、レントゲンを撮影して驚くことがしばしばあります。
リンパ腫組織に心臓が包み込まれているために心音が聞こえにくくなっているのです。
3. 消化器リンパ腫
胃や腸などの消化器官に影響を与えるタイプです。
もっとも発見が困難なリンパ腫であると私は思います。多くの場合には、胃や腸管に発生したリンパ腫組織が脆いために穴が開き、消化管の内容物が流出する消化管穿孔という状態が発生することにより発見に至ります。
消化管穿孔は、その直前までは全くの無症状であることがほとんどです。消化管にリンパ腫が発生していながら下痢や嘔吐などの消化器症状を示している場合は少ないように私は思います。
穿孔が生じるとその瞬間から急激に状態が悪くなります。来院時はぐったりとしていて診察台の上でもほとんど動きません。直ちに血液検査やレントゲン検査を実施しますが、多くの場合血液検査においての異常値を示すことがほとんどありません。レントゲン検査において消化管内のガスが消化管の外に漏れ出た状態(腹腔内遊離ガス)を発見することで消化管穿孔が確定できますが、遊離ガスが無い場合には腹部に細い針を刺して腹腔内の液体を採取し、その中に大腸菌などの消化管内細菌を確認することで診断を下します。
消化管穿孔の場合には、先ずは点滴などで状態の改善を図り緊急的に開腹手術を行います。
手術により穿孔部位を切除して正常な消化管同士を接合し、腹腔内に漏れ出た消化管内容物を徹底的に洗浄吸引し、閉腹します。穿孔部位の病理検査の結果によりリンパ腫となった場合には、手術から回復した後にリンパ腫に対する追加の治療をするかどうかを検討します。
症状
リンパ腫の症状は、がんの場所と進行度によって異なりますが、以下のような症状が見られることがあります。
総じて、特定の決まった症状はありません。フェレットの場合には、何らかの難治性の疾患の場合には常にリンパ腫の可能性を意識する必要が高いと私は思います。
一方で、リンパ腫ではないのにリンパ腫と誤診をされてしまうことが多いのも、フェレットのリンパ腫の一面でもあるように思います。
くらた動物病院のリンパ腫の治療
①診断
リンパ腫の診断は、通常、身体検査、血液検査、血液塗抹検査、X線検査、超音波検査、
そして患部の組織サンプル(生検)によって行われます。
②治療
リンパ腫の治療には、以下のオプションがあります
- **化学療法** -
これが最も効果的であり一般的な治療法で、抗がん剤を使用します。
獣医腫瘍学の数十年に渡る知識の蓄積と20年余りのフェレットのリンパ腫への抗がん剤治療の知識の蓄積により、当院でのフェレットのリンパ腫に対する薬剤の投与方法(プロトコル)が確立されています。
この当院のプロトコルは今後も新しい知見に基づき必要に応じて修正していきます。
抗がん剤による主な副作用は骨髄抑制と呼ばれるもので、規定通りの投薬量であっても、貧血や白血球の減少、血小板の減少などを引き起こす場合があります。程度によっては致命的になる恐れもあります。
このような副作用(体への悪影響)を可能な限り発生させないようにしつつ、リンパ腫細胞にはしっかりとした作用を発揮できる投与量を体の状態を診ながらまさにさじ加減をして治療を進めます。
抗癌剤の使用に当たって大切なことは、抗がん剤によってフェレットがより一層苦しい状態になることは可能な限り回避すべきであると思います。
- **ステロイド療法** -
症状を和らげるために効果は限定的ですがステロイド(プレドニゾロン)が使用されることがあります。
当院でも年齢や合併症の有無など様々な要因を考慮して飼い主様と相談させて頂きながら治療を進めます。
抗がん剤の選択がベストではないと判断する場合も多くあります。
- **放射線療法** -
一部の医療施設の場合に使用されます。くらた動物病院では行っておりません。
③予後
リンパ腫の予後は、リンパ腫のタイプ、進行度、治療への反応によって大きく異なります。一部のフェレットは治療によって数年間生存することができますが、この病気は通常、命を脅かすものとなります。
フェレットのリンパ腫は深刻な状態であるため、疑わしい症状が見られた場合は速やかに獣医師の診察を受けることが重要です。早期発見と適切な治療が鍵となります。